MADDENING NOISE Memorandum
戦国無双&OROCHI中心二次創作文垂れ流し人の雑記帳
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イベントと云えば稲姫という事で、七夕ネタです。
お暇でしたらば、どうぞm(__)m
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伝わらない
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さやさやとあるかなしかの風に笹の葉が揺れている。 間もなく本格的な夏がやってこようかと云う時期だ、僅かな風であっても夜気を動かし多少は涼を感じる事が出来た。 風魔は夏が嫌いだった。 山育ちという事もあるし、人より格段に体温が低いという事も重なって、山を降りた里で迎える夏にはいささか辟易としている。
初夏を過ぎた今時分でそうなのだから、本格的に夏になったらさっさと山に引き上げようと心に決めていた。
「さあ、風魔殿も短冊をお書きになって下さいませ」
随分下の方から声をかけて来るのは、現在風魔が支配している徳川の闘将本多忠勝が娘、稲姫だ。
「何を書けと云うのだ、小鹿」
風魔は不機嫌そうに応えるが、彼女は一向に気にかけた風も無く「風魔殿の願いを」と短冊を彼の顔に向かって差し上げる。 風魔が彼女の事を小鹿と呼んでいるのは本多忠勝を大鹿と称しているせいだ。 風魔にしてみれば、配下に置いた徳川家康は狸、本多忠勝は大鹿、服部半蔵は犬で、どれもこれも彼の飼う獣、という事になる。 勿論一番気に入っているのは犬ではあるが、狸も鹿もなかなかに可愛らしいと思って居た。
「うぬは、何を書いたのだ」
結い上げた小鹿の黒髪が風に揺れてさらさらとなびくのを目を細めて見つめながら風魔は問うた。 彼女は少し首を傾げて「内緒です」と笑う。
内緒と云われれば知りたくなるのが風魔という男であって、目ざとく見つけていた彼女の懐の短冊を素早く抜き取った。
「駄目です!」
抗議の声など気にもかけず風魔は彼女が書いたらしい凛とした女文字の短冊に目を通した。 そこには‘どうか自由になって下さいませ’と書かれてあった。
「これがうぬの願いか?」
全く意味がわからぬ、と風魔は下方の娘をまじまじと見る。 稲姫は恥ずかしそうに顔を俯けると、それでもこっくりとうなずいた。
例えば彼女が風魔による支配からの脱却を願うのだとしたら‘はやく自由になりたい’とかもっと判り易く‘風魔、滅’だのと書くのが妥当である。 笹の上の方に吊るされている半蔵の書いたらしい短冊を横目で見ながら風魔は思った。
――自由になれ、とは一体誰に対しての願いであるのか。
であるから思ったままを口にした。 すると稲姫は俯いたまま、
「申し訳ありません、僭越では御座いましたが、風魔殿の事を願わせて頂いたのです」
そう言った。
「全く無駄な願いであるな。 我は風、もとより自由。 風はなにものにも縛られはせぬ」
「はい、であるからこそ、今の貴方様がおいたわしくて」
俯けた顔を上げ、じっと風魔を見つめる稲姫の瞳には、確かに憐憫の様な感情が乗っている。 その瞳で見つめられると、風魔は何故だか苛々としてくる。
「うぬの言葉の意味がわからぬな」
「はい、申し訳ございません」
「うぬの如き小娘に何が判ると云うのか、不愉快だ」
「わたくしは、何もわからぬ小娘でございます。 ただ、自然の理であればわたくしにもわかります。 空は碧く何処までも広い。 地は揺るがず動かず脈々と命をはぐくみ続ける。 そして、風は何処へでも吹き何に縛られる事も無く自由」
「我が縛られているとでも云いたいのか」
苛立ちのままに冷たい視線で彼女を睨みつけると、再びその顔は俯けられ小さな薄桃色の唇が「もうしわけございませぬ」と微かに震える小さな声を吐き出した。
「我は風、何に縛られる事も無く――」
「何を縛るものでもないはずです」
風魔の言葉を奪った声は、やはり小さく弱々しかったが、風魔は酷く苛立って右手の甲で彼女の頬を緩く叩いた。
「生意気な小鹿だ」
「小鹿ではございません、稲です」
言葉通りの生意気な返答に、一瞬風魔は彼女を突き飛ばしてやろうかと思いもしたが、どうにも手の甲にあたった彼女の頬の感触が柔らかく、この様なものを傷付ける事を忍びなく感じた。
だから、ふん、と鼻を鳴らして彼女の前から姿を消したのだ。
遠く微かに彼の名を呼ぶ彼女の声が聞こえた。 それは先程彼女が云った言葉と同様に、風魔の胸に何やら妙な痛みを与え、彼は更に苛立ってもう一度声に出して「意味がわからぬ」そう呟いた。
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⇒end
伝わらない、風は自由に吹いてこそ風、という思い。
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